ユーロ:コインの裏側 |
前回に続き、ユーロを話題に取り上げたい。 ユーロ紙幣は五〇〇から五ユーロまで七種類あり、デザインは表裏とも一二カ国共通で、表は建物の窓や入口、裏は橋で統一されている。たかが紙幣の絵柄というなかれ。そこにはヨーロッパ連合の意志とメッセージがこめられているのである。窓や入口は開かれた心を、橋は相互のつながりを——つまり、ヨーロッパのあるべき姿を象徴的に表現しているのだ。 紙幣に描かれている建物や橋はヨーロッパ建築の伝統を思わせるものばかりだが、実在するものではない。選ぶにふさわしい建築物はいくらでもあるはずだが、あえて実物を避けた理由は何か。お国自慢にとどまるなら多愛ないが、紙幣や硬貨のデザインひとつでさえ、選定の方法を誤れば、国同士のエゴの衝突へと発展しかねない。それが統一通貨への合意を台無しにしたりすれば、まさに元も子もないのである。近代国民国家が助長したナショナリズムの弊害——その最たるものが二度にわたる世界大戦だった——を極力抑制しようとするヨーロッパの意志をそこに見ることができるだろう。 他方硬貨はどうかといえば、表は一二カ国共通のデザインだが、裏はそれぞれの国が自由に決めたものである。だから、コインの裏側を見れば、それがどの国で発行されたものかすぐにわかる。 ユーロのコインは二ユーロから一セントまで八種類あるが、八種類すべて同じ絵柄で統一している国、すべて異なる絵柄を選んだ国、価値によってコインを三つに分類しそれぞれ絵柄を変えている国といった具合に、デザインの仕方は国によってさまざまである。しかも分類方法やどういう絵柄を選んでいるかまで詳しく比較すると、さらに違いや特徴が見えてくる。コインの裏側には、お国柄が現れていると言えるだろう。 統一を強調する紙幣と各国の独自性を許容する硬貨。この組み合わせにも、多様性を保ちつつ一致を追求するヨーロッパの知恵がさりげなく発揮されている——と私の目にはうつるのである。
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