書評

森護『英国史のティータイム』大修館書店、1991年


 本書は西洋紋章学・英国王室史を専門とする著者が、史書・古文書・伝記を調べてゆくうちに知った意外な史実やエピソードを二三の項目に分けて紹介したものである。著者が「あとがき」で述べているように、どれも「歴史の表街道から離れた話題」ではあるが、専門家の引出しに埋もれたままにさせるには惜しい興味深い話ばかりだ。

 では、どんなことが取り上げられているのだろう? 「ボディーガーズと近衛兵」「戴冠式の珍事」「タータン」「生涯入浴しなかった男」などと、たしかに普通の歴史書では読めそうにない話題が続いている。たとえば「怪奇好み」の項に紹介されているクロムウェルの首にまつわる話などは、まさに興味津々のエピソードと言えよう。

 本書に添えられた数多くの図版も読者の理解をたすける有力な手段となっている。実際に、近衛兵の連隊の見分け方などは言葉だけではなかなか説明しきれないだろうが、図版を見れば一目でわかるのだ。

 「ティータイム」という題が示すとおり、これは堅苦しい歴史の講義ではない。歴史好き同士が親密なおしゃべりを楽しむ−−そんな雰囲気をたっぷりともった本である。だから、ゆったりとくつろいで、著者の話に耳を傾けようではないか。

(長崎外国語短期大学教授 戸口民也)



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