書評

石野好一著『CD活用 フランス語の入門』白水社、2001年

戸口民也


 毎年春になると、初級フランス語の最初の授業で学生に次の三つのこと言うのが習慣になっている。まずフランス語の音になじむこと。次に単語や表現を覚えること。そして語順によく注意しながら、フランス語のしくみを覚えること。

 石野好一氏の著書は、これら三つのポイントをすべて満たしてくれる入門書である。付属のCDを聴きながら学べば、フランス語の音になじみ、フランス語の表現を耳からも覚えることができるし、どのくらい単語を覚えたかは巻末の単語集で確認できるようになっている。

 だが、この入門書の最大の特徴は、学習者に構文把握を強くうながしているところにある。この点は非常に重要で、「語順によく注意しながら、フランス語のしくみを覚える」と私が言っているのもまさにこのことなのである。学習者が初級から中級、上級レベルへと進んで行けるかどうかを大きく左右するのは構文把握能力であると私は考えている。しっかりした内容の文章や談話を理解するには、そこで話題になっていることが何かを常に意識しながら、全体のコンテクストの中でセンテンスさらには単語の意味を把握する必要がある。そして、その理解の基本となるのが構文把握能力に他ならない。

 「言葉を用いる時の基本は文です」(p.4)という観点から、著者は従来の慣例にとらわれることなく、それぞれの文法事項を見直し、提示のしかた・配列のしかたに工夫をこらしている。たとえば、従来の文法参考書・教科書ではほとんど取り上げられることがなかった「que節」や「不定詞構文」の使い方が、基本文型の延長としてわかりやすく説明されている(p.98-103)のも、構文把握を基本とする本書ならではのことだろう。

 叙法の取り上げ方にも、著者のユニークな視点がよく現れている。接続法を説明するのはなかなか難しいのだが、「直説法が〈現実の世界〉を、条件法が〈想像の世界〉をあらわす方法なのに対し、接続法の世界はひとことでは言いにくく、しいて言えば〈不確実・主観・感情・否定の世界〉となるでしょう」(p.162)という解説はわかりやすい。

 学習者だけでなく、教師にとっても示唆に富む指摘が随所に見られる。不定冠詞と定冠詞の使い分けを説明しながら「既知」と「未知」の区別を語り、そこからさらに日本語の「は」と「が」の違いについてのコメントにつながって行くところ(p.34-35)、「伝達者と元の発言者という2つの視点が共存したまま」の直接話法と「全体が〈私〉の視点から語られる」間接話法(p.144-145)など、挙げ出したらきりがないほどだ。

 初心者だけでなく、初級レベルをすでに終えた人にも推薦したい本である。フランス語の考え方・しくみ・発想法について考え直す/学びなおすヒントを提供してくれるに違いない。

(長崎外国語大学)



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