教皇ベネディクト十六世回勅『真理に根ざした愛』8-9

(2009年6月29日)

日本語版:カトリック中央協議会、2011年 より
(なお、日付は漢数字を算用数字に改めました)


8 尊敬すべき先任者教皇パウロ六世は、1967年に発布した回勅『ポプロールム・プログレシオ』において、真理の輝きとキリストの愛の柔和な光によって、諸民族の発展という重大なテーマに光を当てました。パウロ六世は、キリストにおける生活が発展にとって第一の主要な要素であることを説き(6)、心と知性のすべて(7)、すなわち、愛の熱意と真理の知恵をもって、発展の道を進む使命をわたしたちに託しました。わたしたちに与えられる恵みである神の愛の根源的な真理こそが、与えるということに対して人生を開き、「すべての人の全人的発展(8)」、すなわち「人間にとってふさわしくない状況からよりふさわしい状況へ(9)」の発展を希望することを可能にします。この発展はその途上において不可避的に遭遇する困難を克服することによつて得られるのです。

 回勅の発布から四十年以上が経った今、人間の全人的発展に関するパウロ六世の教説を再確認し、この教説に描かれた道にわたし自身の立場を置き、それを現代に適用することによって、この偉大なる教皇を記念し、賛辞を送ろうと思います。現代の状況へのこの継続的な適用は、神のしもべ教皇ヨハネ・パウロ二世が『ポプロールム・プログレシオ』発布二十周年を記念して発布した回勅『真の開発とは』から始まりました。それまでは、『レールム・ノヴァルム』だけがこのように記念されたのです。さらに二十年が経過した今は、一致への人類の旅に光を当てるものとして、『ポプロールム・プログレシオ』が「現代の『レールム・ノヴァルム』」であると考えられるのに値するとの確信をわたしは表明します。

9 ますます、そしてあまねくグローバル化が進行する世界にある教会にとつて、真理に根ざした愛( caritas in veritate )は取り組むべき重大な課題です。現代においては、人間および民族の実際の相互依存に、真に人間的な発展を生みだす良心および知性のレベルの倫理的交流が伴わないという危険があります。理性と信仰に照らされた愛に根ざしてのみ、より人道的で、人間らしさの回復により役立つ発展目標の追求は可能になります。単なる技術の進歩や有用性に基づいた関係のみで、真正な発展を生み出す財や資源の分かち合いを保障することはできません。良心の間、そして自由の間の相互補完性への道を切り開く、善をもって悪に打ち勝つ(ローマ12・21参照)愛のカも必要です。

 教会は、提供できる技術的な解決策をもちません(10)し、「国家の行う政治的なことがらへはいっさい干渉(11)」しようとはしません。しかし教会は、いかなる時や状況にあっても、人間とその尊厳およびその使命に合致する社会のために、なし遂げなければならない真理の任務を帯びています。真理がなければ、経験主義的かつ懐疑的な人生観に容易に陥ってしまいます。そうすると、実践についての判断とそれを方向づける価値(ときにはその意義すら)の把握への関心の欠如によって、実践の段階にまで到達することができなくなってしまいます。人間存在への忠誠は、真理への忠誠を必要とします。それだけが、自由を(ヨハネ8・32参照)、そして人間の全人的発展の可能性を保障するのです。この理由で、教会は真理を探求し、飽くことなくこれを宣言し、これが明白にされたいかなる所においてもそれを認知します。この真理の使命は、教会が決して放棄できないものです。教会の社会教説は、この宣言の特別な側面です。それは人間を自由にする真理への奉仕です。教会の社会教説は、知識のいかなる分野から生じる真理にも開かれており、これを受け入れ、しばしば見つけられる真理の断片を集めて一つにし、人間および民族からなる社会のたえず変化する生活様式の中で、真理を伝えていきます(12)

(6) 教皇パウロ六世回勒『ポプロールム・フログレシオ(1967年3月26日)』16( Populorum progressio : loc. cit., 265 )参照。
(7) 同 82 ( loc. cit., 297 )参照。
(8) 同 42 ( loc. cit., 278 )。
(9) 同 20 ( loc. cit., 267 )。
(10) 第二バチカン公会議『現代世界憲章』36、教皇パウロ六世使徒的書簡『オクトジェジマ・アドヴェニエンス(1971年5月14日)』4 ( Octogesima Adveniens AAS 63 [1971], 403-404)、教皇ヨハネ・パウロ二世回勅『新しい課題――教会と社会の百年をふりかえって(1991年5月1日)』43 ( Centesimus Annus : AAS 83 [1991],847 )参照。
(11) 教皇パウロ六世回勅『ポプロールム・プログレシオ(1967年3月26日)』13 ( Populorum Progressio : loc. cit., 263-264 )。
(12) 教皇庁正義と平和評議会『教会の社会教説綱要』76 参照。