ユーロの手ざわり


 昨年末から三週間半ほどパリとローマで過ごしたおかげで、ユーロへの切り替えに現地で立ち会うことになった。統一通貨を実際に手にした感想を述べてみたい。

 新しい紙幣・硬貨を手にしたときは、お金という実感がわかないのが普通だろう。だが実際に使ってゆくうちに、やがてなじんでくるものだ。今年になって早々に、ヨーロッパ一二ヶ国の国民は一斉にそれを経験したわけである。

 切り替えがスムーズに実現するよう、各国政府もさかんに広報活動や事前準備を行っていた。それでもユーロ使用開始の一月一日には——私はパリにいたが——商店のレジ、駅や劇場、映画館などの切符売り場では普段よりも長い列ができた。二月半ばまでは移行期間なので、ユーロとフランのどちらでも支払いができる。だからまずどちらで払うかを聞かれる。それからユーロまたはフランの値段を確認し、お金を払い、お釣りをもらうことになる。ところがユーロの場合、払う側も受けとる側もまだ新しい紙幣と硬貨に慣れていないので、お金を数えて渡したりそれを受け取って額を確かめるのに、いつもより時間がかかったのである。

 しかしそれは一時のことで、しばらくすれば誰もがユーロになじむようになるだろう。実際にローマに移ったときはすでにユーロ使用開始から一週間ほどたっていたので、お金のやり取りはずっとスムーズだった。切り替えは予想以上に順調に行われているようだ。

 多様性の中での一致——それがヨーロッパの目指す方向であり、ユーロはその象徴の一つともいえる。統一通貨に問題がまったくないとは思わない。だが、理想を追求しようとすれば困難も大きい。障害にばかり気を取られて前進をあきらめるのではなく、将来の可能性を見据えて問題をひとつずつ解決しながら、ヨーロッパはユーロ導入にこぎつけたのである。

 私たちもいい加減にネガティブ思考はやめにして、肯定的発想法に切り替える必要があるのではないか。真新しいユーロを手に、私はそう思わずにはいられなかった。


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