フランス語を学ぼうとする人へのメッセージ

戸口 民也

2006年4月


 よく学生にいうことがある。それは、自分のテーマを見つけたまえ、ということだ。

 毎年、入学試験で面接をする。そのとき、たいていの受験生は、会話ができるようになりたいと言う。だが、ちょっと考えてほしい。いったいきみは何を話すつもりだろう。おはよう、こんにちは、元気ですか・・・ それくらいはだれだってすぐに話せるようになる。新しく習う外国語でも、その程度の表現を覚えるのに一週間もかからない。

 大切なのはその先だ。きみには何か話題があるだろうか? さようならといって別れるまでの間に、話すこと、聞くことはたっぷりあるのだろうか?

 お分りだろうが、会話というのは「こんにちは」と「さようなら」のあいだが肝心だ。だれかと親しく付き合いたいと思っても、お互いに語るべきこと、言ったり聞いたりすることがなかったら、たったの一時間だって耐えられないはずである。

 実は、これは語学以前の問題である。たとえ日本語で話す場合でも、お互いに伝え合うことがもしも何一つなかったら、その人と友だちになれるだろうか? きみは相手に不満をもつかもしれない。しかし、相手の方だって、きみと付き合う気にはならないだろう。互いに語り合う話題がなかったら、コミュニケーションは成立しない。もちろん、友情と信頼に満ちた関係など築けるはずがない。

 ただ、自分の思いや考えを正確に言葉で表現するのは、母国語でも決して簡単ではない。内容が深くなればなるほど、ますます難しくなってくるものである。まして、外国語でコミュニケーションとなればなおのことだ。その外国語が本当に自分の言葉になっていなければ、深い意味のあるメッセージなど伝えようがないだろう。しかも、どんなにがんばってみても、外国語を母国語以上に使いこなすことはできないのだ。

 しかし、自分にとってほんとうに意味のあることなら、苦労してでも表現し、人に伝えようとするだろう。そして、きみがそのことについて、だれかと親しく語り合うことができたとしたら、それこそが本物の会話なのである。親しい交わり、本当の友だちも、そうやってはじめてできるものだ。

 だから、外国語を学ぼうとしたら、その言葉が自分の第二、第三の言葉になるところまで、とにかくがんばることだ。母国語同様とまではいかないにしても、自分の思いが伝えられ、しかも相手からのメッセージも受けとめ、理解できるくらいのところまで・・・ 最初のうちは、いわゆる「語学」の勉強しかできないかもしれない。しかし、大切なのはそれがやがて、その言葉を使って学ぶ、その言葉でもって自分のテーマを研究する、自分が大事だと思うことを人に伝える、人からも伝えてもらう、というふうに発展してゆくことである。確かにしんどい作業だが、努力すればそれは可能である。

 とにかく、自分のテーマをみつけたまえ。人と語るべき何かをもてるようにしたまえ。そのときはじめて言葉は、母国語であれ外国語であれ、きみ自身の言葉となり、真にコミュニケーションの道具となる。言葉を学ぶ意味もそこにある。

* * * * * * * * * * * * * *

 長崎外大に入るのはそれほど難しくはない。しかし、入ってきた学生にはしっかり勉強してもらうから、楽をして出られる大学では決してない。とくにフランス語コースはみっちり鍛えるところだ。フランス語週間、フランス語検定試験(日本のだけではなく、フランス政府の検定試験も受けるのである!)、スピーチコンクール、フランス語劇など、やることは山ほどある。

 おまけに、フランス語コースは、ほとんどの学生が2年の半ばからフランスに留学する。2年目というと「中だるみ」になりがちだが、それどころではない。留学の準備、そして外国での勉強と生活にたっぷり苦労しながら、しかしフランス語の運用能力をしっかり身につけて、半年後、一年後に帰国してくる。勉強をしながら、学生生活の楽しさもたっぷり味わっている。それが若さの特権で、学生たちの表情はみな明るい。しんどいからこそ力もつくし、苦労があればこそ充実した学生生活がおくれるのである。

 フランス語を学びながら自分のテーマを見つけたいという人はぜひ来たまえ。大学での勉強とはどういうものか、身をもってわかるはずだから。