論文とは何か

― 東郷雄二『文科系必修研究生活術』より ―


論文とは、特定の学問上の問題について、十分な論拠をもとにして、主張や証明を行なう、論理的に構成された著作である。
 あなたがもし研究生活の初心者ならば、このような定義を示されてもピンと来ないかもしれない。その場合は、ネガティブに考えて、「論文とはこういうものではない」という形で性格づけをしたほうがよいだろう。

(1)論文はエッセー・随筆ではない
 エッセーや随筆は、折りに触れて感じた事柄を書きつづったものである。論文と異なる点は、エッセー・随筆には論拠に基づく論証が必要とされず、作者の感じたことが読者にも何となく感じられればよいという点である。エッセーならば、「人生は空しい」と書くだけでよい。作者がそう感じていればよいのである。しかし、論文ならば、なぜ人生は空しいのかを、客観的な根拠をあげながら論証しなくてはならない。論文には読む人を説得するだけの論拠と論理皿が必要である。

(2)論文はひとりよがりの文章ではない
 論文は不特定多数の人が読むことを目的としたものである。読んだ人が内容を理解し、あなたの主張に賛成してくれるように書かなくてはならない。自分だけにわかる記号や、仲間うちだけでしか通じない用語などを使ってはならない。論文は自分が読んでわかるようにではなく、不特定多数の人が読んで理解できるように書かなくてはならない。

(3)論文は読書感想文ではない
 外国文学研究の卒業論文などでときどき見かけることがあるが、研究対象となる作品を読んで、その感想を書いたものは断じて論文ではない。論文とは明確な問いに答えるものでなくてはならない。その問いは「〇〇は××であるか?」と明示できるものでなくてはならない。問題の設定されていない文章は論文ではない。

(4)論文は芸術作品ではない
 論文は学問上の主張を行ない、読む人を説得することを目的とする文章である。文章の書き方はわかりやすく論理的なものでなくてはならない。芸術作品のような凝った文体や、詩的な飛躍や比喩などは必要ないばかりか、論文の目的を害するものである。

(5)論文は先行研究のまとめではない
 十分に先行研究を調査しているのに、論文にはなっていないということがある。それは自分自身の主張がないからである。取り扱う学問上の問題について、自分自身の主張すべきことがなければ、それは論文にはならない*。
*ただし卒業論文は、4年間の大学での勉強のまとめという性格が強く、それほど厳しく独創性が求められることはない。
― 東郷雄二『文科系必修研究生活術』夏目書房、2000年、156~159頁